子羊で沈黙・・・の巻-2

 たしか僕が初めて子羊を食べる機会を得たのは、以前、興善町にあったロシア料理とフレンチの名店、Hであったろう(今は観光通りに移転)。子羊とりんごのカレーソース、という料理だったと思う。おそらく、子羊の腿肉や背肉の切り落とし的な部分を、クリームの効いたカレーソースで煮込み、りんごのフレッシュさを残しながら仕上げた一品だった。ほどよい脂が乗った、かすかに癖のある肉は、その後、一生忘れられぬ好きなものの一つとなった。
 その後は、ほとんどレストランで出される子羊のスタイルは、その1で書いたように、上品に骨の柄をつまんで食べるスタイルの背肉ばかりで、このスタイルを幾度となく味わって来た。まず、焼き加減。これがモノを言う。完全なレアはちっとも旨くない。マトン(成羊肉)ほどではないが、脂にわずかながら独特の味があり、和牛みたいに低温でも口内で溶ける感じではない。調べてみると子羊は44℃だそうだ。ちなみに和牛の脂肪の融点は異常に低く、20℃前後とのことである。
 ということで、子羊は、火が通り過ぎてはジューシーさが絶たれるが、じんわりと肉の奥まで熱が入り、脂が十分に温まっていることが望ましい。なので、ロゼといった感じの焼き上がりが一番である。ラムラック(切り離していないスペアリブの長方形の塊のままの形)で焼き上げるのだが、火の通し加減でシェフの腕がわかろうというものだ。今まで食べた中で、焼き過ぎはそれほど経験していないが、ほんの少し熱の入りが足りず、脂が妙にしつこいという焼き上がりの肉にはかなりの回数、遭遇してきた。また、切り口がかなり鮮紅色に見えても、意外としっかり脂に熱が加えられた焼き上がりになっていることがあるかと思えば(比較的最近食べたのでは、中通り脇の老舗フレンチPの子羊背肉の焼き上がりは秀逸)、その逆もあったりする。