愛しのヴァランシエンヌに日生劇場で出逢うの巻:その2

 海外の劇場での失敗談でお茶を濁し、引っ張りまくっておきながらなかなか東京編は進行しなかったのには少々訳があります。
 しんのじはしばらく次々と病を患い、12月に入ってからというもの、数週間ほど絶不調でありました。どうにか仕事に穴を開けないだけで精一杯の状況を過ごして参りましたのは、東京で遊びまくったツケがきたのでしょうか。でも、不謹慎ではありますものの、あの東京での甘美な一日は、体調を崩しまくったこの3週間近くを引き換えにしても、お釣りが来る位楽しかったのでした。
 初めて訪れた日生劇場。近くには名だたる名劇場が鎮座し、その中には散人先生が主戦場とされていた某劇場もすぐ隣にあります(今は改装されており、当時の面影は薄いそうですが)。隣のカフェでエスプレッソを飲み、花束を受付に預けていざホールへ。愛しのヴァランシエンヌがとって下さっていた席は、前から6列目というスペシャルシート。しかし、前過ぎないので舞台の奥行きはしっかり見え、足首から下が見えないなんてことはありません。
 オケピットには小編成のオケが楽器を温め、チューニングにいそしんでいます。開幕前の、本当にワクワクする時間が過ぎてゆきます。
 話し出すと、たぶんもうキリがないので、ちょっとずつ頭に残ったことを断片で書いちゃいます。ものすごく大雑把に筋をまとめると、要するにポンテペドロ国の富豪の未亡人、ハンナを巡る恋の駆け引きの物語です。と言ってしまうと身も蓋もありませんが(笑)、このテーマに、国の要職に就き、国家の将来を憂うツェータ男爵の貞淑な若妻のはずのヴァランシエンヌと伊達男カミーユとの禁じられた恋模様が絡んできます。彼らが密会中につい落としてしまった「あ・い・し・て・る」と書かれた扇を鍵に、物語がどんどんこじれて、爆笑の展開(誰が、誰に渡した扇なのか??を巡る憶測の嵐(爆))を迎えていくわけです。この二人の、コミカルだけれどちょっと甘酸っぱい恋の駆け引きが大変小気味よいのです。明るい歌声はいいし、演技はお茶目で、台詞回しも楽しさ満載。もう、客席は受けに受けまくっています。隣の散人先生の笑い声も聞こえます。
 朗々たる歌声と、熟練の台詞回しで舞台を落ち着けるツェータ男爵役の池田直樹氏は、いわばオペレッタ全体のリーダー役。ハンナを密かに慕い続けるダニロヴィッチ伯爵役の桝貴志氏は、ぶきっちょで一途なキャラを、張りのある声で見事に表現。パリ社交界の伊達男、カミーユを演じる小原啓楼氏は、明るい声の素晴らしいテノールで、まさに適役。日本にもこんな素敵なテノールがいることを幸せに思います。また、伊達男の一人、サン・ブリオッシュ役の近藤圭氏も、粋なルックスとキャラの立った立ち回りによく通る声で、楽しさをさらに深めていました。主役の未亡人、ハンナ・グラヴァリ役の永吉伴子さんの端正な歌声とやや抑え気味の演技は、物語に深みを与えるいい効果があったように感じました。また、狂言回し役で、ストーリーの進行をそれとなく台詞で告げていく、召使いニェーグシュ役の鎌田誠樹氏は元々ミュージカル俳優さんだそうです。その際立ったコミカルな演技と、跳ねた髪型はまるで手塚治虫氏の漫画から飛び出してきたような楽しさで、舞台に活き活きとした魅力を加えていました。この方、歌もオペラ歌手に混じってそう遜色のないレベルでこなせていたと思います。将来が本当に楽しみな役者さんです。  
 プロのダンサー達による見事なジャンプを織り込んだ、モンゴルと中東を合わせたような不思議なポンテペドロ国の踊りも面白く、楽しい楽しいオペレッタは快調に進んでいきます。 
 そして、いよいよ第3幕。パリのマキシムで、踊り子に紛れ込んだヴァランシエンヌほか貴婦人達が、愛くるしい衣装を身にまとい、脚を高く上げてプロのダンサーとほどんど同じレベルでカンカン踊りに興じます。綺麗に高く脚が上がって、目のやり場に困るほどです(汗)。そしてついにはプロの男性ダンサー2人にリフトされ、真実子嬢はなんと空中で回ったりまでするではありませんか!一昔前のオペラ歌手からは考えられすらしなかったような凄い演出!!歌い手達も嬉々として躍動しています。演出の山田和也氏も当然凄いのだけれど、バレエ教室に通い、脚を氷で冷やしながら練習に耐えた真実子嬢にも心から拍手を贈らずにはいられません。そして、指揮を執るマエストロ下野竜也氏は、全体の軽快な流れをしっかりとキープしつつ、聴かせ所はしっとりと場を締め、極めて自然で心地よい音楽の流れを作っておられました。さすが、若手No.1の呼び声も高い、才能に溢れる方だと実感しました。
 てなことで、大変盛り上がった素敵な舞台。散人先生と共に楽屋にお祝いに出向いた話や、夜の東京各地を豪遊した話は、第3話に譲るとします。本当にこの話だけで引っ張りまくりですみません。
 追伸:先週末、久しぶりにシーカヤックの3人連れで、長崎湾口の初冬の午後を楽しんで参りました。石垣が崩れかけた昔の砲台の跡や、洞窟探検など、半日でしたが充実した楽しいパドリングでした。そうそう、それに東京番外編(笑)で一緒にカラオケパーティをした某新進女優さんと、昨夜、島原でも大いに盛り上がりました!もちろん、散人先生プロデュースです。その話も、おいおい、ね(笑)!